京都で初めての「空」の絵が完成した。
約10日間の奮闘。 息が詰まるような日々だった。 日に日に体調を悪くした。 バイトも辞めた。倒れそうになったからだ。
空の絵を描こうとすると、きまって心から空がなくなる。 空は憧れているほうがずっと健康的なんだ。
空は相手にしたときから煙のように姿を消して、簡単に画面には現れてくれない。
「お前に一体何が分かる?」 「ほら、捕まえてごらんよ」 と、四六時中ぼくを試してくる。
頭痛がひどくなって、自由な空を描こうとしているのに、ぼくの命はどんどん窮屈になっていく。
魂を絵に込めるってこういうことなんだと改めて痛感した。 苦しい。
100号の大作は2年ぶりだ。 あやうく廃人になるくらい気持ちが沈んでいくような毎日が10日ほどあり、昨日の晩、ふと明日完成する予感があった。
今朝起きて絵と向き合う。 顔が気に入らない。 とことん手を入れていくけれど、上手くいかない。 どうすればいいんだろうと指でこすったりナイフで削ったりしていると、偶然上を向いた目が絵の具の下の層から現れた。
これだ!!
と思ってその勢いのまま殺意のような強烈な観念を持って仕上げた。 何時間も何時間も手を動かして探していた最後の「目」が現れるのは本当に一瞬だった。
もうこれ以上は良くならないと心のそこで思ったとき、物凄い歓喜が込み上げてきて、全身に鳥肌が立った。 思わず野球選手みたいにガッツポーズをした。
そのまま急に寒気が体中を覆って、30分くらい悪寒に震えた。 張り詰めた神経がとろけていって、鏡で自分の顔を見ると、見たことがないほどの隈が両目の下に浮き出ていた。
麻薬的な歓喜だった。 いや、安堵といったほうがいいのかもしれない。 長い長いマラソンを走りきった感じ。
なんでこんな辛い思いをしてまでぼくは絵を描きたいんだろうか なぜ画面のなかに見たことのない空を見たいんだろうか。
しかし、幸せであるなら絵なんか描かないことは確かだ。
次は、モナ・リザを「空に帰す」。
あ、バイト探そう...。
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